国民生活センターより住宅のリースバック契約のトラブルについての注意喚起がありました。この「リースバック」とはどういったものでしょうか。
「リースバック」とはご自宅を売却した後、売主と買主で賃貸借契約を締結し、買主は貸主となり売主は借主となって、売主がそのままご自宅に住み続けることができるとする仕組みです。
お金が入用だけど住まいを変えたくない、というニーズに応えた方法で、これには一定のメリットがあります。特に高齢者になるとご夫婦の一方が何かしらの施設に入居したいが手元資金に不安があるなどの場合、このリースバックであれば入居費用を賄うことができ、また配偶者にとっては今までと変わらずに自宅に暮らすことができる等のメリットがあります。
ところが昨今このリースバックの取引が増えたと同時に、国民生活センターでは2年連続(2025年時点)して年200件を超える相談が寄せられる様になりました。またその相談者の7割は70歳以上の高齢者とされています。
リースバック契約は先述の通り、売買契約と賃貸借契約を同時に行うことを指します。売買契約により手付金などを受領し、決済日に残代金の支払いと同時にその所有権を移転させます。本来その時点で所有権は買主に移転されるので、売主には正当な理由がないとその建物に住まう事はできません。そこで賃貸借契約を締結することで正当に住み続けることができるとしています。
しかし相談事例では、この賃貸借契約に問題がありトラブルになったケースや、リースバック特約でトラブルになるケースが多いようです。
リースバックでよくあるトラブル事例は以下の通りです。
1)家賃を上げられた・家賃が払えない
2)勝手に売却された
3)自宅の買戻し金額が高い・買戻しに応じてもらえない
4)修繕費の負担で揉めた
5)定期借家契約で契約して、再契約を断られた
6)売買金額が適正額を大きく下回った
7)自分の相続人と揉めた
8)リースバックをした事業者が倒産した
この中でいくつかの事例について解説していきたいと思います。
●事例(1)(5)リースバックで締結される賃貸借契約では「定期借家契約」を用いられるのが多く、国交省アンケートでは実に80%の割合で定期借家が利用されています。この「定期借家契約」とは期限が決まっている賃貸借契約で、概ね2年または5年程度の期間を決め、期限を迎えたら賃貸借契約は終了、つまりリースバックのケースだとご自宅から退去し、どこかへ引っ越しする必要があるということになります。「定期借家契約」はトラブルが元々多めの契約でしたので、現在では公正証書による契約であったり、事前に内容を説明した書面の提出をしなければならなかったり、「普通借家契約」より契約行為自体に厳重な要件が設けられています。そのため説明する部分も多く、その合意をもって締結される契約です。もちろん定期借家でも「再契約」を行えば引き続きご自宅に住むことはできます。しかし「定期」と「普通」借家の差がよくわからない内に契約をしてしまい、「急に出ていけと言われた!」というトラブルに繋がってしまったり、再契約の際に賃料交渉が入ってしまったりと、従前と同様にはいかなくなった、ということで相談されるケースが増えてきている様です。これは少し後述いたしますが、そもそも「リースバック」とは優しい横文字ではなく、普通に難しい売買契約と賃貸借契約を2件連続で行い、かつそれぞれを繋げて1体の契約とするものです。当然全てを理解するのには時間が必要です。
●事例(2)(3)(6)リースバック特約では急に所有者が変わらないように、「第三者に勝手に売却しない」などとする特約が設けられることがあります。しかしこれには数年という期限が定められるかもしれませんし、通知で足りるかもしれず、永続的な約束とは言い難い部分があります。特に昨今のように不動産の価格が上昇傾向である場合には尚更です。リースバックは元々その売買価格が相場より低めに設定されるケースが多くあります。不動産を購入したのにも関わらず、賃借人が付いてくるので自由に活用することができません。そのため銀行の査定が通常の売買より低く見積もられる可能性が高いです。例えば相場が100だとすると、買取査定はその80前後の提示の可能性があり、リースバック査定は更に下の60~70の提示がされるケースもあります。つまりリースバックで不動産を売る=相場より、場合によっては買取よりも安く売却している可能性が高いということでもあります。そういった事を分かっている人たちに売却しているので、どこまで約束が守られるのか、しっかりとその事業者を見極める必要があると思います。もちろん第三者に売却された場合、従前の賃貸借契約は当然引き継がれることになりますが、条件面の交渉事が起きる可能性は否定できません。また第三者に売却された場合、従前のリースバック契約に「買戻し特約」が付いていたとしても、これを第三者に対抗することは場合によっては難しいこともあります。リースバック事業者と売買をしたとしても、内容を引き継いでそのリースバック事業者が第三者に売却するとは限りません。
●事例(4)修繕費の負担で揉めた、というのもリースバック特有のトラブルです。リースバックでは所有者が賃借人になるため、今のままの状態で引き続き住まわれるという点で、従前の建物の不具合の発見は新しい所有者からしたら難しい側面があります。そのため、リースバック特約で「借主(元所有者)が修繕費を負担する」と定められるケースが多いのです。これは通常の賃貸にはない特約です。この特約以外にも、新たな設備の設置の可否、増改築やリフォームの可否、賃貸借終了時の原状回復の内容等、きちんと確認しておかないと引渡後に思わぬトラブルに繋がります。
さらにリースバックの問題点は、自宅を不動産業者に売却することになるので、クーリング・オフができない点です。リースバックであろうと、売買契約を不動産会社と締結するので、その時点で無条件での契約解除はできなくなります。解除するには契約時に受け取った手付金と同額の金員を支払う、いわゆる「手付倍返し」で解除することになりますが、これにも期限が決まっています。その期間を過ぎて解除する場合は、契約書に定める違約金解除しかなくなり、一般的には売買金額の2割に該当しますので、こういった事にも注意が必要です。
再三になりますが、リースバック契約とは売買と賃貸の2つの契約を連帯して纏めなければならない、ちょっと難しい契約です。売買契約には売買の、賃貸借契約には賃貸の、それぞれの契約に関する知識が必要です。それを纏めて行うというのは一般消費者からしたら普通に難しいのではと感じています。上記の通り、よく理解していないとご自身に不利になるケースが多くなる契約です。リースバックにはそういった側面があるため、安易に勧めるものではないと思っています。本当にリースバックが適切なのか、よくよく検討することをお勧めいたします。
それでもリースバックを検討せざるを得ない状況も大いにあると思います。そういった場合には、例えば全くの第三者の不動産会社を仲介に入れ、少なくとも相談者様の味方になって動いてもらうようにするなど、自衛策も併せて検討した方が良いように思っています。
リースバック事業者だけとお話して決めないようにする、これも立派な対策です。