日本政府は、2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の実現に向け、2021年10月、地球温暖化対策等の削減目標を強化することが決定しました。これをうけて、日本のエネルギー消費量の約3割を占める建築物分野における取組と、温室効果ガスの吸収源対策の強化を図る上でも、日本の木材需要の約4割を占める建築物分野における取組が民間にも求められる様になりました。
このため、政府の取り組みとしては、今般、建築物の省エネ性能の一層の向上を図る対策の抜本的な強化や、建築物分野における木材利用の更なる促進に資する規制の合理化などを講じています。

色々と書いてありますが、要約しますと「建物そのものの省エネ性能を上げる」という事になります。
建物の躯体に係る部分と、設備に係る部分に分けて、それぞれ評価基準を設けましょう、ということで、その評価基準を分かり易くするために、「省エネ性能ラベル」というラベルの表示ができる様になりました。このラベルを見れば、この建物は躯体も設備も表記されている通りの省エネ性能を有していると一目で分かります。このラベルは、その建物を設計した者(法人)もしくは第三者機関が評価して発行することができます。
設備に対する評価を示しているのが「エネルギー消費性能」で、例えば建物に設置している設備が性能のよい「エアコン」や、「エコキュート」「太陽光パネル」の様な省エネ設備を取り付けると星のマークが増える様になります。
建物の躯体に対する評価は「断熱性能」の方で、断熱性能を高めれば高めるほど重く、強固な建物になっていきます。
これらの評価はいまの建築基準法で建物を建てると、基本的には等級4で星1の評価を得られます。こういった省エネについての性能ラベルを新築戸建てや新築アパート等に掲載することができる様になるので、一般の方々からすれば、これが借りたり買ったりの一つの目安になり得る、という点で一定の期待がされています。むしろ、今後はこの「性能ラベル」がない物件だと、どういった性能を有しているのか分かり辛くなり、一見して物件の競争力に影響が出てくる可能性の方が高くなりそうです。
この省エネ等級4とは、2022年10月までは最高等級でした。現在ではさらに等級5・6・7が新設され、今後は8等級の設定も検討されています。政府は2025年現在この等級4を最低限のランクに、2030年には等級5のZEH水準(等級5の星3)を最低限の基準にする予定です。
このZEH(「ゼッチ」といいます)は「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略で、要約すると建物から発する電気代をゼロ相当にしましょう、というものです。建物から排出されたり外部から受けたりする熱を極力少なく(断熱化)し、一定のエアコン等の設備で家中快適に、且つ使う電力は太陽光パネル等再生可能エネルギーでペイしましょう、というイメージです。
よくわかりにくいのですが、「ZEH」と「ZEH水準」は別の用語となっていることです。簡単に説明すると「ZEH」は太陽光パネル「有」の住戸、「ZEH水準」は太陽光パネル「無」の住戸とされています。創エネがあるかないか、という違いです。
国は2030年から「ZEH水準」をベースにするので、太陽光パネルといったシステムの設置義務はありませんが、それ相応の省エネ建物と設備が義務化されるということになります(東京都などの一部自治体では2025年現在で一定規模のハウスメーカーには太陽光パネルの設置を義務化しています。東京都の場合はZEH以上のゼロエミ住宅も推奨しています)。
この等級4と7とでは、目に見えて分かる部分に「光熱費の削減」があります。概ねの見込みでは年間数~10数万円程度の削減が見込まれる一方で、裏を返せばこれらは建築費が上がる、という話にも直結することになります。その為、自治体にも寄りますが、省エネ性能を上げる事で補助金などの対応をしているところもあったりします。
ただ今回の省エネ法改正で一番注意しなければならないのは、既存の建築物にも省エネ基準の適用が求められることです。既存の建築物がそれらに耐えられるかは個別の調査が必要になりますが、上述の通り、おそらく躯体の構造の部分で難しい可能性の方が高いと考えられています。これは別の記事にも記述しますが、既存住宅でこれからリフォーム検討すると、場合によっては「既存不適格建築物」と判断され、それを改修して初めてリフォームができる、という事になってきます。
この「既存不適格建築物」の判断が省エネ法改正の基準とすると、様々なケースが出てきてしまうとして中古戸建のマーケットにも多分な影響が出ると考えられています。
これが進むと、結局なにもしない=評価されない・しない、が一番コストの掛からない事になり、それがいいのかどうかはまた別の話になりそうです。ただ、この省エネ改正は2022年ころから案内されていますので、その当時から2030年に向かってその住宅性能を含めて建てられている可能性は高いと思われます。
本来快適な家に住みたい、という希望や期待は、施主さんや買主さんの任意で決めれば良かったはずでしたが、戸建てに限って言えば、これからはそうではないのかも分かりません。
ただ、逆を言えばこれから建てられる戸建て等は2025年以前のものより性能が良くなっている、という事でもあります。少なくとも建売のレベルがどんどん上がるという意味では悪い事ではないのかもしれません。