「遺言書」とは一言でなんと説明しましょうか?自分の家族に向けた最後の手紙とも言えますし、最後に法的効力を持たせることができるものとも言えます。法的効力があるという事は、ご自分の意思でご自分の資産を自由にする権利があるということにもなります。それは法律行為になりますので、前提として行為者(書く人)の「意思能力」が問われることにもなります。

例えば認知症になった後に自筆遺言書を書くことはできますが、これは他の相続人から「被相続人(亡くなった方)は認知症を発症していたので、この自筆遺言書は無効だ」と訴えられるリスクが生じてしまいます。全ての法律行為は、大前提として本人の意思能力があることを基準としています。認知症のあるなしは本人の意思能力に左右される、これは遺言書だけの事ではなく、不動産売買やあらゆる行為に影響を及ぼします。
この意思能力の怪しい時期が、高齢になればなるほど人間には現れてしまう、これはどうしようもない事ですが、いざ裁判沙汰になった際にはよく突かれてしまうポイントにもなってしまいます。相続紛争になってしまった場合、原告側の弁護士はあらゆる手でこのポイントを突き、裁判官の心証を悪くしようとしてきます。
例えば、この自筆遺言書はこの当時(昔)の被相続人との筆跡が異なるので偽物の遺言書だ、と訴えてきたり、生前相続人の1人であるA氏から色々口添えされてきたので何枚も遺言書があり内容もバラバラだ、なので遺言書自体が無効だ、なんて訴えてきたりする場合もあります。
前者の場合では、人間高齢になると筆跡も少しずつ変わってくる場合があります。手の震えや書き方が大雑把になる等の傾向は高齢になれば現れてしまう場合があります。それを原告側は例えば被相続人が病院や老人ホームにいた間の、本人が記述したあらゆる書類をかき集めて筆跡が違う、と言ってきます。少し余談ですが、筆跡は間違っていないとして筆跡鑑定をするのは訴えられた(被告)側になるので、鑑定代は被告側が負担します。裁判にはこの様な諸経費がいくつか発生する場合がありますので、弁護士費用が高いというのは、こういった諸経費の積み重ねもその要因になっていると思います。
後者の場合も、初めての遺言書には司法書士や弁護士からアドバイスを貰いながら書いた、とするケースは多いのですが、そこで書き方を理解すると、その通りに書けば加筆修正もできると思い、2枚目3枚目と数年単位で遺言書を書き換えてしまうケースがあります。
そこで問われるのが、1人で書いたのかどうか、その当時の認知能力はどうだったのか、筆跡はどうなのか、色々な事が出てきます。
お金の入出金で銀行から引き出した形跡があると、当時のビデオ映像を相手方の弁護士は入手してきます。その時に同行者が居れば、その方にも当時の状況をヒアリングしてきます。その方が例え被相続人のご兄弟であっても、そのご兄弟が如何に高齢であっても裁判に巻き込まれることになります。一つの裁判で関係者が増えていく事は往々にしてあり、被告側の心理的プレッシャーにもなり得る事にもなります。
こういった事を予防する一つの手段が遺言書になりますが、自筆だと上述の通り付け入る隙が出てきますので、可能であれば公正証書による遺言書をお勧めしています。
裁判になると過去にあった事柄を一つひとつ第三者(弁護士等)が調べていきます。そこでは淡々と事実のみを調べられていきます。それが原告側の訴えに有利なのか被告側に有利なのか、そういった事を判断されていきます。良かれと思ってやった事でも、原告側に付け入る隙を与えてしまう要因になるかも分かりませんし、第三者からみたらおかしいと思われてしまう事かもしれません。そういった行為を全体的にそつなくこなす事は中々に難しいことです。「介護が必要な親の為に、親の口座から施設費用を支払った」これも場合によっては争点になるかもしれません。
相続時の裁判件数は相続件数のおよそ5%前後を推移しています。これから相続件数は増えていく事が考えられていますので、率は変わらなくても件数自体は増えていく事になります。
少し補足いたしますが、これまでの書き方だと「遺言書」もあまり意味がないのかな?と思われるかもしれませんが、遺言書は確実に有用です。それでも相続には色々出てくる可能性があるというお話でもあります。また少し被告側に寄った書き方になってしまったこともご了承くださればと思います。
相続は本当に色々あります。弊社でもできるアドバイスがあるかもしれません。少しでも心配事がございましたら、お気軽にお声掛けください。