2025.9.1

●じじねた●「リースバックにご注意?」

最近「リースバック」のCMをよく見かける様になりました。個人的に思うことではありますが、「リースバック」は余り簡単な話ではなく、同様に「リバースモーゲージ」も簡単に決断できるような話でもない様に思っています。それでもCMが多いということは、最近の流行りもあるのかもと思うと、メリット以外にデメリットもしっかり考えて頂いた方がいいのではと思い、まずは「リースバック」から不動産屋視点で解説してみようと考えました。

そもそも仕組みからして「リースバック」は簡単ではないなと思っていたところ、今年に入り不動産協会経由で国民生活センターより住宅のリースバック契約のトラブルについての注意喚起がありました。

ではこの「リースバック」とはどういった仕組みなのでしょうか。

「リースバック」とはご自宅を売却した後、その売主と買主で賃貸借契約を締結し、買主貸主となり売主借主となって、売主がそのままご自宅に住み続けることができるとする仕組みです。通常、不動産の売買は契約時に手付金などを受領し、決済日にその残代金の支払いと同時にその所有権を売主から買主に移転させる目的で行われます。決済の時点で所有権は買主に移転されるので、売主は元所有者となり、正当な理由がない限り売却した不動産に住まう事はできません。そこで賃貸借契約をあらかじめ締結することで決済日以降も正当に住み続けることができるのが「リースバック」です。

お金が入用だけど住まいを変えたくない、というニーズに応えた方法で、これは住まいの活用法として新たなメリットが加わったことでもあります。特に高齢者になるとご夫婦の一方が何かしらの施設に入居したいが手元資金に不安があるなどの場合、このリースバックであれば入居費用を賄うことができ、また配偶者にとっては今までと変わらずに自宅に暮らすことができる等のメリットがあります。

ところが昨今このリースバックの取引が増えたと同時に、国民生活センターでは2年連続(2025年時点)して年200件を超える相談が寄せられる様になりました。またその相談者の7割は70歳以上の高齢者とされています。

以下はそのリースバックで起きたトラブル事例です。

1)家賃を上げられた・家賃が払えない

2)勝手に売却された

3)自宅の買戻し金額が高い・買戻しに応じてもらえない

4)修繕費の負担で揉めた

5)定期借家契約で契約して、再契約を断られた

6)売買金額が適正額を大きく下回った

7)自分の相続人と揉めた

8)リースバックをした事業者が倒産した

この中でいくつかの事例について解説していきたいと思います。

●事例(1)(5)リースバックで締結される賃貸借契約では「定期借家契約」を用いられるのが多く、令和2年の国交省アンケートでは実に80%の割合で定期借家が利用されています。この「定期借家契約」とは期限が決まっている賃貸借契約で、アンケートでは概ね2年または3年程度の期間を決め、期限を迎えたら賃貸借契約は終了、つまりリースバックのケースだとご自宅から退去し、どこかへ引っ越しする必要があるということになります。「定期借家契約」はトラブルが元々多めの契約でしたので、現在では公正証書による契約(定期借家契約の種類によります)であったり、事前に内容を説明した書面の提出をしなければならなかったり、「普通借家契約」より契約行為自体に厳重な要件が設けられています。そのため説明する部分も多く、その合意をもって締結される契約です。もちろん定期借家でも「再契約」を行えば引き続きご自宅に住むことはできます。しかし「定期」と「普通」借家の差がよくわからない内に契約をしてしまい、「急に出ていけと言われた!」というトラブルに繋がってしまったり、再契約の際に賃料交渉が入ってしまったりと、従前と同様にはいかなくなった、ということで相談されるケースが増えてきている様です。これは少し後述いたしますが、そもそも「リースバック」とは優しい横文字ではなく、普通に難しい売買契約と賃貸借契約を2件連続で行い、かつそれぞれを繋げて1体の契約とするものです。当然全てを理解することは難しい場合もあります。

●事例(2)(3)(6)リースバック特約では急に所有者が変わらないように、「第三者に勝手に売却しない」などとする特約が設けられることがあります。しかしこれには期限が定められている場合もありますし、通知で足りる(勝手に売却する訳ではない)かもしれず、永続的な約束とは言い難い部分があります。特に昨今のように不動産の価格が上昇傾向である場合には尚更です。リースバックは元々その売買価格が相場より低めに設定されるケースが多くあります。不動産を購入したのにも関わらず、賃借人が付いてくるので自由に活用することができません。そのため銀行の査定が通常の売買より低く見積もられる可能性が高いのです。例えば相場が100だとすると、買取査定はその80前後の提示の可能性、リースバック査定は更に下の60~70の提示がされるケースもあります。つまりリースバックで不動産を売る=相場より、場合によっては買取よりも安く売却している可能性が高いということでもあります。もちろん第三者に売却された場合、従前の賃貸借契約は当然引き継がれることになりますが、条件面の交渉事が起きる可能性は否定できません。また第三者に売却された場合、従前のリースバック契約に「買戻し特約」が付いていたとしても、これを第三者に対抗することは場合によっては難しいこともあります。リースバック事業者と売買をしたとしても、内容を引き継いでそのリースバック事業者が第三者に売却するとは限りません。なお、当該アンケートでは買戻しをした利用者率は戸建て・マンションともにほんの数%という結果でした。買戻しをした主体は分かりかねますが、8割が定期借家で、その更新頻度もケースバイケースだとすると、売却した2~3年後の再契約で揉めない利用者がいないというのは微妙な話だと思ってしまいます。

●事例(4)修繕費の負担で揉めた、というのもリースバック特有のトラブルです。リースバックでは所有者が賃借人になるため、今のままの状態で引き続き住まわれるという点で、従前の建物の不具合の発見は新しい所有者からしたら難しい側面があります。そのため、リースバック特約で「借主(元所有者)が修繕費を負担する」と定められるケースが多いのです。これは通常の賃貸にはない特約です。この特約以外にも、新たな設備の設置の可否、増改築やリフォームの可否、賃貸借終了時の原状回復の内容等、きちんと確認しておかないと引渡後に思わぬトラブルに繋がります。

●事例(7)リースバックは不動産の売買ですので、不動産は残らずお金だけ残ることになります。そのため相続財産から外れることになりますので、相続人がいらっしゃる場合には事前によくお話をされておいた方がいい事案だと思っています。

この様なリースバック特有の問題以外にも、さらにリースバックの問題点として挙げられるのは、自宅を不動産業者に売却することになるので、クーリング・オフができないという点です。リースバックであろうと、売買契約であることには変わりはありませんので、売買契約を不動産会社と締結すると、その時点で無条件での契約解除(クーリング・オフ)はできなくなります。解除するには契約時に受け取った手付金と同額の金員を支払う、いわゆる「手付倍返し」で解除することになりますが、これにも期限が決まっています。その期間を過ぎて解除する場合は、契約書に定める違約金解除しかなくなり、一般的には売買金額の2割に該当しますので、こういった事にも注意が必要です。

再三になりますが、リースバック契約とは売買と賃貸の2つの契約を連帯して纏めなければならない、ちょっと難しい契約です。売買契約には売買の、賃貸借契約には賃貸の、それぞれの契約に関する知識が必要です。それを纏めて行うというのは一般消費者からしたら普通に難しいのではと感じています。上記の通り、よく理解していないとご自身に不利になるケースが多くなる契約です。リースバックにはそういった側面があるため、安易に勧めるものではないと思っています。本当にリースバックが適切なのか、よくよく検討することをお勧めいたします。

それでもリースバックを検討せざるを得ない状況も大いにあると思います。そういった場合には、例えば全くの第三者の不動産会社を仲介に入れ、少なくとも相談者様の味方になって動いてもらうようにするなど、自衛策も併せて検討した方が良いように思っています。少なくとも賃貸借契約は「普通借家」にしてもらう、相場より安く売却する可能性もあるのでしっかり買取査定・売却査定も同時に行うなども有効と思います。

リースバック事業者だけとお話して決めないようにする、ご子息がいらっしゃる場合にはご子息にも交渉事に参加してもらう、これも立派な対策です。

最新の記事Latest Posts

LINEお問合せはこちらから